雪の百名山 伊吹山

Introduction

伊吹山は滋賀県米原市、岐阜県揖斐郡揖斐川町、不破郡関ヶ原町に跨る1,377mの百名山。私にとっては初めての百名山だ。古くから霊山とされ『古事記』、『日本書紀』では日本武尊が伊吹山の神を倒そうとして返り討ちにあったという神話が残されている。また室町時代後期には織田信長により野草園が作られたとされており、山上には多くの貴重な植物が現存するなど今でも歴史の跡が色濃く残る山でもある。今回は麓の三之宮神社前の有料駐車場(500円)に車を停めて伊吹登山口から山頂を目指す。

概要

昨年の11月末、弥山に登って以来の今回の山行。山に登りたくてウズウズしていたものの、山に行くための条件をなかなか整えることができず実に3ヶ月ぶりとなる。登山口からの登り始めは体調を確認しながら慎重に登り進める。伊吹登山口から山頂へ向かう登山道は1合目から景色が開き、2合目からはすでに山頂が見え始める。5合目までは比較的緩やかな道が続くが、そこから山頂まではひたすら急登が続く。山頂まで斜面が緩やかになることはなく、雪もずっしりと積もっており体力の消耗は激しい。気温も低く立ち止まると体が冷えてしまうため、ひたすら歯を食い縛って進み続けるが、目の前に見えている山頂はなかなか近づいてこない。標高が上がるについれて徐々に雪深くなっていき6合目を過ぎたあたりでアイゼンを装着して登り進めた。

8合目を過ぎたあたりで疲労はピークに達し、体に力が入らなくなってきた。最初はやはり体調が戻りきっていないのかと思ったが目眩が出始め、10歩進むのもやっとになってしまう。ただの体調不良ではない。これはガス欠だ。入山前に食べたサンドイッチだけでは雪道で消耗するエネルギーをまかないきれなかったようだ。少し進んでは休み、また少し進んでは休みを繰り返しながらようやく山頂に辿り着き、カップラーメンを食べると体力はみるみる回復した。

山頂についた直後は景色を見る余裕もなかったが、食事を摂った後は山頂からの景色を多少堪能っできる程度の余裕が戻った。それでもガス欠による体の冷えは激しく、動いて体を温めることを優先して写真もそこそこに来た道を下山を急いだ。

コースタイム

登山口-5合目

登山開始-三之宮神社前

登山口最寄りの駐車場に車を停め、車から出るとまず三之宮神社が目に付く。神社の向こう側には伊吹山の山頂が僅かに顔を覗かせている。早速写真を撮っているとどうやら駐車場を管理しているお店のお婆ちゃんらしき人が駐車料金の回収に近寄ってきた。500円の駐車料金を支払うと「気をつけて行ってらっしゃい」と送り出してくれた。山の近くで暮らしている人たちはいつも同じ言葉をかけて山に入っていく人のことを優しく見送る。山に登るという行為には少なからず危険がつきまとうということも、そしてそれでも山に登りたいという登山者の気持ちも、山に登って得られるものの素晴らしさも、多くの登山者と触れ合って知っているのだろう。

登山口-2合目

登山口からの登りは緩やかな歩きやすい階段から始まる。体を慣らしながらゆっくりと歩き始めるが3か月ぶりとあって足は重い。森林の中を20分ほど歩くと伊吹高原荘のある1合目に到達し景色は開ける。

1合目からは草原の道が始まる。雪解けによる泥濘みは多少あるものの空が見渡せる気持ちの良い道だ。徐々に体も慣れてきて快調に歩を進め、体も温まり汗をかき始めたので、2合目のベンチで上着を脱いだついでにタバコを一服。天気がよく米原の町が一望できる。

2合目-5合目

2合目を過ぎると間も無く伊吹山の雄大な姿が眼前に現れ視界を埋め尽くす。山頂までの道はほぼ一直線。これだけ見通しの良い登山道も珍しい。雪で白くなっている部分の斜面がかなり急になっているのがここからでもよくわかる。登り始めてからここまでのペースは悪くないが今日の体調であの雪の斜面を登りきれるだろうか?

3合目付近まで来るとすでに登頂を終えて下山していく登山者とよくすれ違うようになる。リュックに下げられているカラフルな尻ソリ(ヒップソリ)が印象的だ。また、気温もそれほど低くなく暑いとさえ感じながら登っている私とは対照的に、下りていく人たちは皆が揃ってアウターを身にまとっている様子が山頂の寒さを物語っている。体が冷えきってしまい、ここまで下りてきてもまだ十分に温まりきれていないのだろう。

4合目付近ではだいぶ残雪が多くなってくる。動いているため体感温度はさほど低くは感じないがそれでも標高をあげるほどに気温は確実に下がっているのがわかる。この辺りは以前ゴンドラの高原駅だったようで、今でもなんとなくその雰囲気を漂わせている。

5合目。ここからがいよいよ伊吹山の本丸とも言えるような急激な登りが始まる。残雪も多くなり体感温度も下がってくる。山頂までの標高差は約500m。途中ゆっくりと休憩できそうな場所は見当たらない。一気に駆け上がるしかなさそうだ。

6合目-山頂

6合目-8合目

6合目の避難小屋まで来ると残雪は急に多くなり本格的な行き道となる。脚が滑り始め踏ん張りが効かなくなってきたためアイゼンを装着。アイゼンの効きにくそうな柔らかい雪だが、予想していたよりグリップは上がり歩きやすくなった。それでも雪の締まりの緩いところではアイゼンの爪の届かない深さから雪が崩れ落ちバランスを崩す。膝あたりの深さまで踏み抜いた跡も見られる。ストックで雪の深さを確かめながら歩幅を狭め慎重に登り進めていく。

8合目-山頂

8合目付近から体調に異変を感じるようになる。はじめは疲労だろうと思い少しペースを落として歩き進めていたが、次第に目眩が出始め体が動かくなり雪から顔を出した岩を見つけて座り込んでしまった。雪道に気を取られ水分補給が足りなかったかと、ハイドレーションのチューブから水を吸い上げる。タバコを一本吸いながら下の景色を眺める。さっきまでは近くに見えた米原の町が随分遠くなったように感じる。

10歩進んでは立ち止まり、深呼吸をしてまた次の10歩。力の入らない体をなんとか前に進め、上を見上げると尾根が見えてきた。さっきまで雲に覆われていた山頂の空はいつの間にか青空に変わっている。

青空のおかげか、少し力が湧いてきた隙に一気に尾根まで駆け上がる。伊吹山の山頂は遮るものが何もなく強風をまともに受けながら前に進む。斜面を駆け上がるために体力を使い切り足はさらに前に出なくなっていた。来た道を振り返ると長浜市の向こうに琵琶湖が見えていることにようやく気が付いた。雲の切れ間から注ぎ落ちる陽の光に照らされた米原の町のなんと美しいことか。

山頂

伊吹山の山頂は広い平地になっており、散歩道の柵が設けられているが今日はその柵が半分以上雪に埋もれて、辛うじて頭を出している程度だ。尾根に出ると柵は左右に別れているが右に辿れば伊吹山の山頂に至る。山頂について最初に出迎えてくれるのは伊吹山寺覚心堂。その周りには山小屋が建てられているがこの時期は営業していない。伊吹山寺覚心堂の脇で風を交わして湯を沸かし、ようやく持ってきたカップラーメンを口に入れる。体内のエネルギーはもうほとんど残っていなかったようで、カップラーメンのスープが全身に染み渡る。食後に覚心堂の中で少しの間寒さを凌いでいるとやがてカップラーメンのエネルギーが身体中に行き渡り、体力が回復してきた。やはりガス欠だったようだ。

体力が回復してきたところで急いで荷物をリュックに詰め込む。寒さで体は硬くなってしまっており今にも脚が攣りそうだ。早く動いて体を温めたかった。公衆トイレ横からの景色を少しだけ拝み、直ちに下山を開始。途中の急激なペースダウンにより、時刻は16:00を迎えようとしている。夕日に照らされてオレンジ色に光る琵琶湖が美しい。

下山

山頂-三ノ宮神社前

食事のおかけで体力は徐々に回復し、体が温まってくると次第に足も軽くなる。登りは2時間かかった6合目から山頂までの雪道も30分ほどで下りきりあとは緩やかに下っていくだけだ。アイゼンを外し雪を払い落すと足が軽くなり思わず小走りになる。振り返ると伊吹山が登りの時とはまた違った表情で見送ってくれている。

Conclusion

三ノ宮神社前に停めた車に着いたのは18:00過ぎ。登りの半分ほどの時間で下りきった。荷物を下ろして缶コーヒーを買い、タバコを吸いながら今日の登山を振り返る。疲労困憊でたどり着いた山頂の景色はあまり思い出せない。強く脳裏に焼き付いているのは途中動けなくなって座り込んだときに見下ろした風景とあたりの静けさだ。

雪がなくなる前にもう一度山頂からの景色をきちんと見に来よう。そう心に誓いながら車のエンジンをかけて帰路に着いた。苦しい登山になったが自宅に着いた後に残ったのはいつもと変わらない心地よい疲労感と次の山行に馳せるだけ想いだけだった。

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